最近の読書。

家に赤ん坊がいると、なかなか自分の時間は持てません。が、育児と家事の合間に、細切れの時間は存在するのですよね。ひとつのことに長時間没頭するということは難しくなりましたが、この隙間時間の有効利用は、なかなか奥が深いな〜と思う今日この頃です。読書量も出産前よりぐっと落ちましたが、今まで読んでいなかったジャンルに手が伸びました。長編小説より短編小説、長いエッセイよりテーマ別エッセイ。というわけで、今回長い時間をかけて読み終えたのは、大江健三郎氏の「『話して考える』と『書いて考える』」です。

「話して考える」と「書いて考える」 (集英社文庫)

「話して考える」と「書いて考える」 (集英社文庫)

大江氏に最もはまっていたのは10代終わりから20代初めで、小説が中心でした。ノーベル賞を受賞されてからは「きっといつでも読める」と思ったせいか、随分と遠のいていました。この本も、いつかの一時帰国時に購入したはずですが、「いつか、きっと」と本棚にしまい込みツンドク状態でした。偶然にも、本文中に以下のような文章があり、まさに今の私の行動を言い当てているかのようでした。

《どうしても難しく、読み続けられない時は、もう少したってから、あらためて読む本の箱に入れておくといい。そして、時どきトライしてみることです。》(集英社文庫130ページ)

このエッセイ集は、大江氏が講演した内容を、後にご自身が改めてエラボレート(念入りに仕上げる)してまとめたものです。講演は、中野重治佐多稲子の生誕100年の会や、看護学会・日本麻酔科学会から、憲法九条の会」まで多岐に渡っています。小説と違って、ひとつのテーマで読みすすめる必要がなく、バラエティーに富んでいるので飽きませんでした。特に今の私にとって興味深かったのが、第二章の「子ども」をテーマにした3つのエッセイです。その中で、大人も子どもと一緒に読んで欲しい本として大江氏が挙げていたのが、フィリパ・ピアスの「トムは真夜中の庭で」という本でした。私はこの本を知らなかったのですが、あらすじによれば、イギリスを舞台にした「時」がテーマの作品だそう。1958年に発表された、カーネギー賞も受賞している児童文学の古典なんですね。以下、大江氏のレビュー抜粋です。

私はつくづくと、「時」ということを中心に、自分の子供のころの心の経験をよみがえらせるようだったし、そこからはっとわれにかえるようにして、いまの年齢の自分の心のありさまを見つめかえすようだったのです。(同110ページ)

原題は "Tom's midnight garden"というこの本、是非、手に入れてみたいと思いました。一冊の本との邂逅から、また新しい出会いが広がるという読書の喜びを楽しみました。


トムは真夜中の庭で (岩波少年文庫 (041))

トムは真夜中の庭で (岩波少年文庫 (041))