靴をぬぐ話。

我が家の階段

あっという間に、8月です。早いです。


さて、こちらで手に入りにくいものの一つに、スリッパがあります。寝室などで履く、毛足が長くて素足にフィットするスリッパはお店にもあるのですが、日本で使う底が硬めのスリッパはお目にかかったことがありません。これは、家の内に入る時に靴を脱いでスリッパにはきかえるという習慣が、アメリカの土足文化にはないからなのでしょう。たとえば、こちらの玄関ドアは、大抵内開きです。玄関で靴を脱がないので、靴を引っかける心配がないからだそうです。対して日本の玄関ドアが圧倒的に外開きが多いのは、そういう理由からなんですね。


さて、欧米の土足文化の中で日本人が生活する場合、どうすればいいか。生まれ育った時から馴染んでいる「土足厳禁」習慣はなかなか捨てられないもの。我が家の場合、1階は駐車場で2階が居室になっているのですが、どこに内と外の境界を作るかで当初問題になりました。日本風に考えると、玄関ドアを入った絨毯びきの階段下で靴を脱ぐというのが普通ですが、前述したような玄関仕様のため、靴置き場も収納スペースもなく、目の前は階段がそびえています。苦肉の策として、玄関ドア内には玄関マットをひき、階段上にもう一枚マットを置いて、まるでごっこ遊びのように「その居間の入口は靴脱ぎ場ってことね」とすることにしました。かなり変則的なんですが。我が家を訪ねてくれた外人さんたちにも、そこでの靴脱ぎをお願いしています。


今までお伺いした、こちらの日本人の方のお宅は、みな靴を脱ぐスペースを用意されていました。案外、日本人は外国文化に浸りきっていないんだなと思います。異国でも自己流を押し通して、譲れないところは、結構頑なに守っているのではないかと。日本人にとって、「家に上がる」ということは、単に「靴を脱ぐ」という行為だけでなく、屋内を清潔に保ち、自らもリラックスし、内と外の境界を明確にするということですよね。それを行う日本の家の玄関という場所も重要なスペースなんだと、改めて感じています。


こんなことをつらつら書き連ねたのも、偶然に糸井重里さんのコラムを読んだからなのです。日頃、何となく思っていたことと合致して、とてもスッキリしました。

ほぼ日刊イトイ新聞-ダーリンコラム