アメリカでの出産【手術編】。

夫の手術着に足型・身長・体重。

ヒューストンはすっかり夏日になってきました。とはいえ、最近の私は家の外にほとんど出ていないのですが。それでも、ベランダに出ると日差しの強さに瞳孔がアタフタして、おでこがキーンと痛くなるあの感覚を味わうことができます。かれこれ一ヶ月近く経ってしまいましたが、記憶が薄れないうちに、今回の出産体験を文字に残しておこうと思います。本日は帝王切開手術についてです。


帝王切開手術日は、赤ちゃんとおなかの状態を診ながら、38週目と決められました。手術当日5月19日の午後1時までにに病院に入り、3時半手術開始と主治医から告げられました。朝の6時までに消化のいい朝食を摂り、その後は水分も一切とらないことになります。バナナとヨーグルトなどを食べたのですが手術まで空腹感もなく、意外と喉も渇かなかったです。やはり緊張していたんでしょうか。後部座席真ん中にチャイルドシートをセットして、夫の運転する車に私の両親・私が乗り込み、12時過ぎに病院に到着しました。


アメリカの病院に入院する場合、事前に入院の登録をしておく必要があります。当日登録も可能ですが、保険や情報開示などの約款を読んでサインするのにえらく時間がかかるので(おまけに英語ですし)、おススメしません。我々は半月ほど前に登録手続きを済ませておいたので、受付で手術病棟を聞いてテクテク歩いていきました。アメリカの病院はエントランスがホテルのようで、受付で用向きを伝えると色々と指示してくれます。また、日本の病院のように各科前に患者さんがずらーっと座って待っているという光景は見られません。アメリカの医師は病院に所属しているわけではなく、一事業主として病院と契約を結んでいます。患者は病院ではなく医師のクリニックに直接アポをとって通い、手術や検査や入院が必要な場合はその医師の提携病院で処置を受けることになります。この辺のアメリカの医療の仕組みを理解するのは、なかなか大変でした。



さて、産婦人科の手術病棟は人気もまばらな、さながら奥の院にありました。1時には早かったのですが、すぐに手術前の個室処置室に通されました。ここで手術着に着替え、血圧計測・点滴・血液検査、おなかにセンサーを取り付けるなど事前準備がなされます。同時に、聞き取り&インフォームドコンセントへのサインが行われました。まあ、これがなかなか厄介。既往症やら家族構成やら、生活習慣・宗教観からピアスやタトゥーの場所や数まで、30分ほど質問攻めでした。ただでさえ難しい医学用語を外国人の私たち夫婦が理解できるはずもなく、電子辞書にも載っていない単語を看護婦さんが身振り手振りで説明してくれたりして、和やかなコミュニケーションではあるものの言葉の壁を痛感したのでした。


手術時間が近づくと、麻酔医が部屋にいらして、麻酔はスパイナル(局所麻酔である脊椎麻酔)であることを告げ、術中になにかあったらすぐに伝えて欲しいといったことを丁寧に説明してくださいました。そして、いよいよ産婦人科医のK先生が登場。赤ちゃんの様子をウルトラサウンドで見て「やっぱり逆子だ」と最終確認。「手術には1人立ち会えますけどどうします?」と言われ驚きました。手術でも立会いって可能なんですね。「では夫を」と指名すると、先生は「じゃあ呼んできます」とのこと。ここで一抹の不安が。普段から「血を見るのは苦手」(得意という人はあまりいないと思いますが)と宣言していた夫は、帝王切開手術となって分娩に立ち会わなくて済むことを内心ホッとしていたはず。スプラッタな光景が展開される手術室で倒れたりしたら。。。


そうこうするうちに、私はベッドに寝かされたまま手術室に移動されました。手術室では6名ほどの看護師さんや麻酔医が、それぞれ準備に忙しく働いていらっしゃいました。TVドラマで見るような、器具がカシャカシャ言う光景です。手術用ベッドに移された私は、中央に腰掛けるように促され、看護師さんが両手をシッカリ握ってくれる間に、腰に麻酔を打たれました。思ったほど痛くなかったですね。そのまま横になると、両手をまっすぐ水平に開いて右手は血圧計、左手は点滴につながれ、鎖骨の辺りにカーテンのような目隠しの布が立てられました。準備が完了した頃、K先生が登場。「これ痛い?」と聞かれて何も感じなかったのでそう答えると、「こんなのでつねっているんだよ」とゴツイ器具をカーテン越しに見せてくださいました。局所麻酔ってすごいですね〜。そして、K先生と同じく帽子・マスクからズボンまで青い手術着で身を包んだ夫が入室してきました。緊張しているんだろうなぁ。


手術が始まった直後、先生が「ほら、パパは早くカメラを用意して!すぐ出るよ!」と。えー、もう出てくるの?と思った瞬間、張り裂けんばかりの「オギャー」の声が耳に飛び込んできました。手術開始から5分とかかっていなかったはずです。この声を聞いて、とにかくホッとしました。産まれたあとは、「これからプレッシャーがかかるからね」と先生が言われた通り、おなかに圧力がかかる感じでそれが何ともいえない鈍痛に。麻酔医さんがしきりに大丈夫かと聞くので初めは「OK、OK」と答えていましたが、「I have a pain」に変化し、K先生にも「ペインがあるんですけど〜。うっ、うっ」と日本語と英語のチャンポンで訴えました。実はこの時、手の甲に刺した点滴がはずれるというちょっとしたアクシデントがあったそうで、ものの数分だったと思いますが、かなり強烈な痛みが襲ってきたのでした。丁度そのタイミングで、夫が赤ちゃんを見せに頭上に来てくれたたため、「ゴメン、今ちょっと待って!」とダメ出ししてしまう始末。ちょっと余裕がありませんでした。お腹の事後処理?と痛みが落ち着いた頃、赤ちゃんを顔の右に置いてもらって初めてのご対面。感想は「小さい!」そして「白い!」でした。全身を震わせて泣いている様子を見て、命ってすごいなとシミジミしました。およそ 9ヶ月、文字通り一心同体だった彼女が一人立ちして初めてこの世界に躍り出た瞬間を見届けることができて、とにかく安心しました。夫も昏倒することなく(笑)、頼もしく赤ちゃんを抱いていました。(後で聞いたところによると、ちょっと離れたところから手術を見守っていたそうな)


手術自体はおよそ40分程度。自然分娩の方の陣痛時間に比べたら、あっという間の出来事ですね。高齢出産の体力温存に帝王切開が行われるというのもよく分かります。私の場合は真一文字の横切りで、ホッチキス止めでした。10年近く前の盲腸手術でもホッチキスでしたが、今回の針の方が大きかったように思いました。使われた針の数も3倍くらいです。術後はまた別の部屋に移動し、1時間ほど休憩。麻酔が効いているので足の感覚はまったくなく、気分が高揚しているせいか眠いようで寝付かれない、心地よい疲労感を味わいました。夫と両親が訪ねて来てくれて、「よかったぁ」「おめでとう」と会話を交わしました。ここまで支えてきてくださったすべての皆さん、環境、家族に感謝感謝です。


続きは「入院編」で。