ある女流作家の生き方。

ヒューストンも三寒四温の今日この頃です。金曜日は30度近くまで気温が上がり家の中でも半袖で過ごしましたが、土日は10度ほど下がって、あわてて長袖に着替えました。この時期の気温対応は大変です。


津村節子さんのエッセイを読みました。作品集の巻末に掲載した書き下ろしをまとめたものだそうで、ご自身のこれまでの半生を振り返った内容になっています。戦前から戦後にかけての混乱期における青春時代は波乱万丈、吉村昭氏との夫婦作家としての生活も興味深くて、読み応えのある本でした。

ふたり旅―生きてきた証しとして

ふたり旅―生きてきた証しとして

前半は、福井市での子ども時代から、母を亡くした後の東京目白に引っ越してきての生活、さらに戦時下の東京を生き延びた筆者とその姉妹の日常を、淡々と綴っています。この時代の一般女性の生き方の著述を読んだのは初めてのような気がして、新鮮でした。ご本人も『新潮』の編集長に「女学生の戦争体験を書いてみてはと言われた時、沖縄の女学生部隊のような壮絶な体験をしたわけでもなく、原爆の被災地にいたわけでもない私の戦争体験など、書いてみても仕方がない、と思ったが、東京で空襲のさなか、軍需工場で働いていた女学生は作家で恐らく私一人かもかもしれない、と思い、当時のクラスメートに集って貰った」(P.61)と書いておられましたから、貴重な記録なのだと思います。


中盤は吉村氏との出会いから作家「津村節子」になるまでの同人雑誌時代の話が中心です。出てくる作家名が綺羅星のごとくで、今では文学史上の作家たちがごく普通に生息していた時代だったのだなぁと実感しました。自分の知っている学び舎や風景も出てきて懐かしかったです。後半は夫婦共に高名な作家となってからの作風や題材との出会い、病との葛藤に筆が割かれています。


恥ずかしながら、津村氏・吉村両氏の著作をほとんど読んだことがなく、初めて知ることばかりでした。この本も日本一時帰国時に母から渡されなければ、一生出会えなかったかもしれません。作者が自らの作品を語る本を先に読んでしまったのは禁じ手かもしれませんが、これから著作を読んでいきたいと思いました。